大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和32年(ウ)51号 決定

申立人 株式会社北海道観光会館

代表者代表取締役 中山貞雄

訴訟代理人 馬場重記 外三名

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

本件申立の趣旨ならびに理由は別紙記載のとおりである。

申立人が、昭和三二年六月一三日札幌地方裁判所に対し、橘商事株式会社を相手取り、(一)札幌市南四条西三丁目七番地の一宅地六五坪九合八勺、同所八番地の一宅地六五坪九合八勺に対する右会社の占有を解き申立人の委任する執行吏の保管に移す。(二)右会社は右土地上に建物を築造してはならない。(三)執行吏は前項の実効を期するため適当な措置をとることができるとの仮処分の申請をしたところ、同裁判所が同年六月一七日その申請を理由がないとして申請却下の決定をしたこと、申立人が同年六月二〇日その決定に対し当裁判所に抗告の申立をしたことは、いずれも記録上明らかである。

普通抗告は執行停止の効力を有しないから、抗告の申立があつても原裁判を執行する場合を生じる。もしそのようなことがあると、後日原裁判が取り消されるか、または変更されるような場合には既にされた執行をめぐつて混雑を生じるので、民事訴訟法第四一八条第二項の規定を設けて、抗告裁判所または原裁判をした裁判所若しくは裁判官が、抗告について決定するまで、原裁判の執行を停止しその他必要なる処分を命じうることにしたものであつて、同法第五〇〇条と同性質のものである。以上の点から考えると、同法第四一八条第二項にいうその他必要なる処分とは、保証を立てさせて執行を停止し、或は相手方に保証を立てさせて執行を続行させるか、または既にした執行処分の取消を命じることなどを指称するものであつて、右以外の処分を意味するものでないと解するのが相当である。それ故、右法条の許容しない処分を求める本件申立は失当といわなくてはならない。

よつて、本件申立を却下することとし、申立費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 猪股薫 裁判官 臼居直道 裁判官 岡成人)

申立代理人の申立の趣旨および理由

申立の趣旨

被申立人は札幌高等裁判所昭和三二年(ラ)第四六号仮処分抗告事件の決定あるまで、別紙目録の土地に於ける建物の二階に関する占有を解いて執行吏の保管に移す。

被申立人は同二階について壁、天井其の他の工事を進めてはならない。

との御裁判を求めます。

申立の理由

一、申立人は被申立人を相手とし、札幌地方裁判所に別紙目録記載土地に対する被申立人の建築工事を禁止する旨の仮処分申請をなし、同庁昭和三二年(ヨ)第一三七号不動産仮処分申請事件として繋属したが、昭和三二年六月十七日申立を却下されたので、申立人は御庁に抗告し、御庁昭和三二年(ラ)第四六号抗告事件として繋属している。

二、右仮処分申請当時は被申立人は全然建築に着手していなかつたが、其の後被申立人は昼夜兼行で仮処分決定前に工事完成せんと努力し今日に於ては既に同地上に木造二階建一棟建坪百十坪五合の建築をなし一階は造作其の他の設備を為しパチンコ三百余台を据付け、近々開店するとのことである。二階は当初三十四坪の建築許可を得たが、同人はこれを無視し総二階を築造し、札幌市よりその超加分については収去命令発せられたときくが、如何なる理由によるか被申立人に於て超加部分を使用しないことを条件として二階全部の建築はそのまま存置することとなつたとのことである。ところで被申立人は平時官庁公司の命令指示は眼中になく殆んど無視して違反強行し居る状態で、札幌市に対しては前記の誓約をなして、ここ二日前より同二階を従業員の宿舎その他に使用して恬として恥ざる状態である。

右の次第であるからこれを放任するときは被申立人は従前の行動よりおして当然右二階全部に対し壁、天井その他造作を施し、公然と使用することは明らかである。かくては抗告人による仮処分申請及び抗告をなした目的を達せざることとなるので民事訴訟法第四百十八条第二項に基き申立の趣旨の如き処分を求めたく、本申立をなす次第です。

(別紙目録は省略する)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例